【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」予告編

連載開始にあたって

 

安倍晋三が総理大臣に復帰してから2年以上が経ちました。2006年に「ポスト小泉」として第1次内閣を発足させた安倍は、「美しい国づくり」というスローガンを掲げ、「戦後レジームからの脱却」を目指して「公共の精神」や「愛国」を推奨する教育基本法の改正、防衛庁の省昇格、憲法改正のための国民投票法成立などを行いました。第2次内閣ではさらに政治姿勢を先鋭化させ、これまで政府方針としてきた武器輸出三原則に替えて防衛装備移転三原則を策定し、沖縄県民の大反対を無視して辺野古への新米軍基地建設を強行し、中韓との関係が好転しない状態が続いています。憲法改正を睨む安倍政権下で、自衛隊は名実ともにその存在感を日々増しているといえます。

 

私はメディア研究者として、自衛隊が公的に協力する一般劇映画を分析し、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』としてまとめました。この研究を行うなかで、多岐にわたる自衛隊の広報活動のなかでも、体験搭乗やシミュレーター等で大変人気のある広報センターに目が留まりました。具体的には、陸上自衛隊広報センター(通称りっくんランド)、海上自衛隊佐世保史料館(通称セイルタワー)、海上自衛隊呉史料館(通称てつのくじら館)、航空自衛隊浜松広報館(通称エアーパーク)などです。これらの開館は、東アジアの緊張が高まり各国のナショナリズムが盛り上がっていった1997年からの10年間に集中しています。また、毎年20倍以上もの抽選倍率でプラチナチケットともなっている富士総合火力演習や、F15座席の試乗などもできる各地の航空祭等、近年の自衛隊主催の体験型イベントの人気にも目を見張るものがあります。

 

この連載では、こうした広報施設や広報イベントを取材してレポートしていきます。「愛妹(あいまい)通信」という奇妙なタイトルは、国木田独歩による書簡体の日清戦争従軍記『愛弟通信』から借用しました。「余に冷静なる観察者を以て望むなく、余をして報告者として筆を執らしむるなく、余をして全く自由に、愉快に友愛の自然の情を以て語らしめよ」として独歩が選んだのは、「余が一弟に与うるの書状」という書き方でした。新聞社勤務の弟へ向けて頻繁に「愛弟、愛弟!」と呼びかける文体は、生き生きと当時の様子を伝えています。私はこれにヒントを得て、1972年に1歳で病死した妹に向け、妹が生きていたら目にしたであろう40数年の日本や世界の様子を織り交ぜつつ、自衛隊が展開する広報の現状を分かりやすく書いていきたいと思います。

 

読者の皆様には、「姉よりの書状を読むの心」をもって「文に拙なるも、一家内の者に示すに何かあらん」というお気持ちで読んでいただければ幸いです。独歩の『愛弟通信』は愛国的でしたが、私の「愛妹通信」は憂国的になるでしょう。国を案ずればこその愛国と憂国、右から見るか左から見るかの違いしかありません。自衛隊広報という面から「戦後70年」を迎える日本を見つめていきます。

 

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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

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