【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第2回

陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」


愛妹。今回は、東京の朝霞市にある陸上自衛隊広報センター、通称りっくんランドに行ってきました。2002年4月5日にオープンし、2015年5月現在までの来館者は156万人強、毎月約1万人が訪れるということです。メインターゲットは小さなこどものいるファミリー、青少年、女性ということで、今年の子どもの日フェアでは、1日の来館者数としては最も多い2974人の来館があったそうです。私が行ったのは平日の昼間だったので非常に閑散としていましたが、入館料が無料ということもあり、週末には子ども連れを中心としてそれなりに賑わうのでしょうね。

 


マスコットキャラクター

 

入口を入ってまず2階に上がると、高い天井から吊るされた大きなパラシュートの下に、AH-1Sという対戦車ヘリコプターや90式戦車などが展示されている広いフロアを見渡すことができます。1階に降りるとそれらを間近で見ることができ、戦闘糧食を紹介したビデオコーナーや制服体験コーナー、訓練風景や災害派遣を紹介するオープンシアター、射撃シミュレーターやフライトシミュレーターなどもあり、偵察用オートバイにまたがることができたり、訓練用のリュックを背負うコーナーがあったりと、飽きさせない内容となっていました。外に出ると、戦車、装甲車、自走りゅう弾砲などがずらりと展示されています。私が行った日はよく晴れており、青い空と初夏の緑のなかでたくさんの戦闘車両に一人で囲まれ、その鉄の車体にそっと触れていると、奇妙な絵本の世界に入ってしまったような、何とも言えない無力感を覚えました。

 

 

屋内展示の戦闘用ヘリコプター

 

屋外展示の戦闘車両群

 

体験用の戦闘用リュック

 

広報センターの敷地に隣接する朝霞駐屯地内にあり、2015年4月から公開が始まった振武臺(しんぶだい)記念館への案内ツアーにも参加してきました。「振武臺」という名称は、昭和18年に昭和天皇が当時予科士官学校だったこの場所を訪れた際に、「将来益々武を振るい、八紘一宇の為をなせ」という意味を込めて名づけたということです。士官学校時代は19000人がここから巣立ったと解説がありました。記念館は小ぶりの美しい建物で、軍人となっていた皇族者が使用した部屋や当時の軍服、敷地内にあった雄健(おたけび)神社の写真などが公開・展示されています。この建物は敗戦後にGHQに接収されたのですが、その際に、現在は靖国神社の倉庫に保存されているこの神社の御神体である刀などを急いで地面に埋めて隠し、没収を逃れたということです。

 

印象に残ったのは、1945年8月15日の敗戦の玉音放送を聞いてすぐに書かれたという血判状です。何十人もの兵士が、「忠」「絶忠」「純忠」「唯忠」「國體護持」という言葉を名前とともに記しており、いかに天皇への忠誠が浸透していたかを改めて認識させられました。ただし、冷静に、そして少し皮肉な見方をすれば、浸透していたのは忠誠そのものというよりも、「忠誠を表明する態度」だったのではないでしょうか。それはもちろん、生命にかかわる必死かつ卑屈な行為であったはずです。戦後の日本人は、その必死さによって自らの過ちを正当化し、その卑屈さをなんとか忘却しようと努めてきたように思えてなりません。

 

このツアーには近隣から来ていた年配夫婦が一緒に参加しており、昔のことをなつかしがりながら熱心に見ていました。彼らの話では、現在の朝霞駐屯地の場所はベトナム戦争時にはまだ米軍キャンプ・ドレイクで、戦場からキャンプ内の野戦病院に運ばれてくる米兵の死体を洗うアルバイトが、非常にいいお金になったということです。愛妹、あなたが亡くなった1972年前後のことですね。私はこの話を聞いて、これこそが戦争の現実なのだろうと思いました。つまり、平和のなかにいる私たちは戦争が非日常だと思っている、でもそれが始まってしまえば日常の営みでしかなく、ある種の無感覚のなかで日々の糧を得ることに汲々とせざるを得ないのだ、と。そして、その頃私たちは戦争が終わったと思っていたけれど、別の戦争には加わっていたのかもしれない、と。

 

愛妹。現在、集団的自衛権の行使を盛り込んだ安全保障関連法案に対する反対運動が盛り上がっています。私も異論・反論に耳を傾けずに国家の重要な転換を強行しようとする姿勢には断固反対ですが、現政権とは別の意味で、国家の安全保障とはどういうことかをこの機会にもう一度真剣に考えなくてはならないとも思っています。左右いずれの立場を見ても、あまりにも使い古された言葉が目につきます。私がこうして自衛隊の広報活動を研究しているのは、問題を単なる憲法9条の擁護に矮小化させず、日本の国のあり方を重層的かつ多面的に捉えたいと思っているからです。愛妹、私は日本という国に生まれた事実をしっかりと背負いつつ、未来へと踏み出す新しい言葉、新しい思想を築きたいと強く望んでいるのです。

 

 

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★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」

 
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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

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