【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第3回

海上自衛隊第1術科学校

 

愛妹。今回は、広島県呉からフェリーで20分ほどの江田島にある旧海軍兵学校、現在の海上自衛隊第1術科学校に行ってきました。ここは幹部候補生学校も併設しており、現在は全体で約3200名の学生と約700名の教官がいるということです。第1術科学校は職業訓練学校のような位置づけで、通称「セーラー服」と呼ばれる若い自衛官から幹部までが専門的な教育を受けています。幹部候補生学校には、毎年防衛大学校や一般大学を卒業した200名ほどが入学するそうです。1960年から広報の一環として校内見学を実施しており、年間約7万人が来訪し、2009年現在で延べ見学者数が450万人ということで、観光名所となっていることが分かります。旅行サイトのトリップアドバイザーが行った2014年の「行ってよかった!無料観光スポット」調査では、3 位に入ったそうです。私が見学した日は平日でしたが、30名以上の参加者がいましたよ。ちなみに、第2術科学校は神奈川県横須賀市、第3術科学校は千葉県柏市、第4術科学校は京都府舞鶴市にあります。

 

見学は、平日は1日3回、土日祝日は4回行われ、約90分のガイド付きです。フェリー港からバスに乗って入り口が見えてくると、遠くからでもその広大で美しい敷地にまず驚かされます。構内には明治の設立当時から電柱が無いそうで、これも広々とした印象の一因でしょう。

 

最初に、瀬戸内海の良質な御影石で造られたという大講堂を見学します。正面の堂々とした入り口は「高貴な方」しか使用できないので、普段は反対側の入り口から出入りします。外の砂利は学生たちが掃くそうで、海に見立てた綺麗な波模様になっていました。中も大変風格のある作りで、和紙が貼られた天井までの高さは14メートル、マイクが無くても声が届くように設計されています。規則正しく配置された床の模様の一つ一つに一人ずつ整列すると、2000人が収容できる広さだそうです。入学式や卒業式もここで行われます。

 

大講堂
御影石で造られた大講堂

講堂内
風格のある大講堂の内部 


綺麗に掃かれた砂利 

床
規則正しく配置された床の模様 

 

次に行くのが、第1術科学校のシンボルともいえる幹部候補生学校庁舎、昔の海軍兵学校生徒館です。正面入り口から左右に長く伸びた赤レンガの建物は、真南を向いて建っているそうです。明治26年にイギリスから良質で高価なレンガを輸入して建造しており、今触っても表面がすべすべとしてキメが細かいのがよく分かります。当時、この江田島の海軍兵学校には、東大や京大を滑り止めにするほどのエリートが集まっており、イギリス、アメリカに次ぐ世界三大兵学校の一つだったそうです。海軍は戦中においても英語教育を継続させ、現在でも幹部はテーブルマナーやダンスまでもが必須であり、世界中に友人を作ることをずっと続けてきたと説明されました。

 

赤レンガ

幹部候補生学校庁舎

 

海上自衛官の真っ白な制服が象徴するように、彼らの誇りの高さは陸上自衛官とも航空自衛官とも全く異なります。自衛官のなかでもひときわ姿勢が良く、全身から自信がみなぎっています。これは「海軍の伝統」と直結しているものでしょう。見学時の説明、ビデオ、パンフレット、あらゆるところに「伝統」と「歴史」という文言が繰り返し繰り返し出てきます。自衛艦旗は今でも海軍の旭日旗です。日本の敗北を全面的に陸軍の責任にし、海軍を善者と捉える「海軍史観」がありますが、まさに彼らにとって敗戦など無かったかのよう…海上自衛隊と名前は変わっても、彼らの魂は輝かしい日本海軍のままなのです。これには本当に驚きました。

 

しかし、いかに彼らが冷静な判断力と洗練されたマナーを身につけていたのが本当だとしても、戦争の責任から逃れられるわけでは当然ありません。自衛隊協力映画の『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(成島出監督、東映、2011年)では、アメリカの国力を熟知していた山本が強硬に戦争に反対していたことがくどいまでに語られ、彼の人柄の温かさが強調されていました。そのエピソード一つ一つが事実だとしても、描かれた全体像は「フィクション」に過ぎず、戦争に参加している限り、国家の暴力を行使する側であったことは間違いないのです。海軍、そして海上自衛隊に今も生きるプライドをベースとした錯覚や思い込みは、陸軍とはまた異なる暴走の温床になるのではないでしょうか。

 

最後に見学した教育参考館には、特攻隊で亡くなった方々の名簿があり、遺書や遺品などが展示されていました。開戦時に637隻保有していたという軍艦は、敗戦時にはほとんどが沈没・大破して168隻しか残っていなかったということです。当然ですが、海軍でもこのように多くの人が亡くなっています。敵だった人も一般市民だった人も、大勢亡くなっています。

 

愛妹。先日「戦争法案」とも批判される安全保障法案が、衆議院で強行採決されました。彼らの死を平和への教訓とするか、国家権力追従の模範とするか、私たち自身の判断が強く問われています。

 

 

 

★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」

 
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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

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