【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第4回

平成27年度富士総合火力演習

 


愛妹。8月23日に静岡県御殿場にある東富士演習場で行われた富士総合火力演習、通称「総火演」に行ってきました。陸上自衛隊によるこの国内最大の実弾射撃演習は1961年から開始され、1966年以降に一般公開されるようになり、戦車やヘリコプター、様々な火砲などによる実弾射撃を間近に見ることができることから、非常に人気が高いイベントとして継続されています。防衛省の発表によると、今年はネット応募14万9083通、はがき応募2万7059通で過去最多の応募数、倍率は約29倍だったということです。

 

 


「総火演」の案内

 

演習開始は10時ですが、抽選に当たった来場者の車が朝早くから会場に押し寄せ、最寄りの御殿場駅からはシャトルバスが観客を満載してひっきりなしに往復します。屋根の無い演習場での観覧なので、来場者はそれぞれ帽子やタオル、飲み物などを装備し、少なくない数の人が立派なカメラを持って、興奮気味にシートへ向かいます。抽選に当たった段階で観覧する大まかなエリアが指定されており、自衛官の指示に従って先着順に座っていきます。会場の外には、飲み物や食べ物を売る屋台のほかに自衛隊のグッズを売るテントも出ていて、多くの人がお土産を物色していました。

 

開始時間が近づいてくると、自衛隊の車に先導されて統合と陸・海・空の各幕僚長、同じく米軍の陸・海・空と海兵隊の各司令官、最後に防衛大臣が車で入場してきます。今年は前日の予行演習の際に、戦車が発射した演習弾の破片が後方に飛び、観覧席の一般見学者二人が足に擦り傷を追うという事故があったので、大臣による謝罪が最初にありました。

 


入場する中谷元防衛大臣

 

演習内容は、陸上自衛隊の主要装備品を紹介する1時間強の前段と、40分の特別プログラムで構成される後段の二つに分かれており、途中休憩を挟んで2時間となっています。演習前後や休憩時間には、音楽隊による演奏や大型スクリーンでのビデオ放映などがあります。

 

前段では、300メートル、500メートル、1キロ、3キロ、5キロメートル先に設置された的に向かって、戦車をはじめとする様々な戦闘車両が、砲弾、ロケット弾、ミサイルなどを次々に撃っていきました。5キロも離れた遠い山の中腹に命中するのも驚きでしたが、同じ距離の目標物に向かって戦車から発射されても、弾の種類によって到達時間が全く異なるのにはびっくりしました。機関銃のように撃ったら即座に次々と届く弾もあれば、大きな弧を描いて8秒ほどで炸裂する弾もあります。その時間差が、特に恐ろしく感じられました。もちろん非常に大きな音がするので、かなり離れたスタンド席にいても時折耳を塞がないといられません。戦車から発射される音、弾が空を切る音、遠くに爆発の炎や煙が見えた後に聞こえてくる爆発音…戦争というのは、ともかく凄まじい音がするでしょうね。

 

 

戦車による実弾射撃

 

前段で印象的だったのは、「対人障害」といわれる指向性散弾の実演でした。これは、遠隔装置で起爆すると1センチほどの散弾が扇状に飛び散って、敵の部隊を一掃する目的のものです。演習では、10数個の風船が敵に見立ててあり、それが一斉に破裂していました。どのような爆弾であれ当然殺傷能力を持っているわけですが、これは「対人」というだけに人間を生々しく想像させ、非常に嫌な気持ちになりました。

 

後段は「島嶼部に対する攻撃への対応」と名づけられており、敵が日本の島に上陸したと仮定して「部隊配置」「機動展開」「奪回」という三段階の過程を見せるものでした。竹島で対立する韓国、とりわけ尖閣諸島で対立する中国を意識しているに違いないこのプログラムは、昨年から始められたということです。航空自衛隊の協力によりF2戦闘機が低空で観客席の前を通過、いざという時の海上自衛隊の軍事行動がスクリーンで紹介され、その後は大型ヘリからバイクや偵察車両が降りたり、戦車部隊が展開したり、戦闘ヘリコプターの部隊が発射を行うなど、とても派手な展開でした。車両に乗った敵の兵士を500メートルの距離から狙撃する場面では、的となっているパネルの人の頭に穴があく様子がスクリーンで映されると、客席から「おお」という大きな声が上がっていました。

 

戦闘ヘリが観客席の間近を飛ぶ

 

全てのプログラムが終了し、来場者が帰り始めようかという時に、オスプレイが一機会場を通過していきました。新聞報道によると、米軍普天間飛行場所属のものだそうです。陸上自衛隊は2018年度までにオスプレイ17機の導入を計画していますが、軍事用ヘリコプターのなかでも事故が目立つ同機の安全性への懸念は払拭されていません。今回は宣伝のための飛行だったのでしょうね。

 


会場を通過するオスプレイ

 

愛妹。日本が近代国民国家という体裁を取る以上、国防という問題は避けては通れないと私は考えています。戦争に向かわない努力をするのは当然ですが、軍事問題に目をつぶることも無責任でしょう。今回の安保法案に反対する人たちは、こうした自衛隊のイベントなどにはあまり来ないように思われます。しかし、反対だからこそ総火演のようなリアルな自衛隊を見学して、近隣アジア諸国やアメリカとの関係を軍事的にどうしたらいいかを考える必要もあるのではないでしょうか。

 

中国にとって対日戦勝記念日となる9月3日には、軍事パレードが行われます。日本の総火演の日程に合わせるように、その予行演習が実施されたと報道されました。人であれば笑って済むような意地の張り合いでも、国家同士となるとそうはいきません。国内外の政治的、経済的思惑が複雑に絡み合い、とんでもない方向に行く可能性もあります。愛妹、そうなったら一番傷つくのはいつも一般市民ですよね。戦車が火を吹くのがこれからもずっと演習の時だけであることを願わずにはいられません。研究者として、私も国家の平和のための真摯な活動をしたいものです。

 

 

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★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

 

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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