【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第5回

防衛大学校見学ツアー

 

愛妹。今回は、幹部自衛官の養成学校ともいえる、神奈川県横須賀市にある防衛大学校の見学ツアーに行ってきました。防大は、日本がサンフランシスコ平和条約の締結により主権を回復した1952年8月に保安庁付属機関の保安大学校として設置され、1954年には防衛庁設置に伴って防衛大学校と改名されました。学費は無料なうえに、毎月の学生手当とボーナスも支給されます。1992年に初めて女性が入校、現在では学生の8%が女性ということです。2009年には、大学院博士後期課程に相当する総合安全保障研究科後期課程が開講され、2015年5月現在で学生数は約2000名となっています。この防大のツアーは入試説明会も兼ねているので、私が参加したときは、50名の参加者のうち1割強が親や教師あるいは友人らと来ている受験生でした。制服を着た女子高生も2人いましたよ。2015年6月には、来校者数2万人を達成したそうです。

 

見学は、ツアー係に案内されての90分です。三浦半島の高台にあるキャンパスは、約65万平米で東京ドームの14.5倍ほどの広大な敷地なので、一部分とはいえかなり歩きます。東京湾を眼下に見渡せるので、戦国時代から軍事的拠点となっていたところでした。1853年にペリーが黒船で来航した浦賀はすぐ近くなので、防大のある小原台からもよく見えたことでしょう。戦中は陸軍の見張所でしたが、戦後は食糧不足から畑になったこともあると説明されました。

 

最初は正面にある本部庁舎を見学します。屋上には旗が三つ揚げられるようになっていますが、この日は来賓の国を示す左側のポールにミャンマーの旗が掲げられていました。私が見学したのは、前回の富士総火演の翌日だったのですが、総火演でも見かけたミャンマー軍高官のグループがたまたま訪問していたようです。9月23日のニュースによると、ミャンマーで日本の官民の支援で開発された大規模な経済特区がオープンし、日本からは麻生副総理兼財務大臣が出席しました。このミャンマー軍人の訪問を見ても、軍隊と経済との関連に注視する必要があるのは間違いないでしょうね。

 

 
防衛大学校の本部庁舎

 

庁舎のエントランスには、これまで防大で講演した著名人のパネルがあります。安倍自民党の方針と酷似した内容の報告書を出し、「ジャパン・ハンドラー」とも一部で批判されるアーミテージ元米国務副長官が、2014年4月に講演した写真もありました。防大は、現在100名ほどの留学生を世界から受け入れており、11ヵ国にのぼる彼らの国の国旗も紹介されています。床には、「真勇」「廉恥」「礼節」と書かれた方位盤がありました。

 


防衛大学校留学生の出身国旗を示すパネル

 

 
「真勇」「廉恥」「礼節」と書かれた方位盤

 

帽子投げで有名な卒業式が行われる記念講堂も見学しましたよ。講堂の通路部分にある創立50周年に同窓会から寄贈された大きなステンドグラスには、日本を象徴する大きな富士山に、陸上自衛隊を示す桜、海上自衛隊を示す金色の海、航空自衛隊を示す紺碧の空が描かれていました。たくさん描かれた桜の花は学生の数ということですが、桜というと「貴様と俺とは 同期の桜 同じ兵学校の 庭に咲く 咲いた花なら 散るのは覚悟 みごと散りましょう 国のため」という歌詞の軍歌「同期の桜」(作詞:西條八十、作曲:大村能章)がどうしても思い出され、私は美しいステンドグラスを手放しで感嘆する気持ちにはなれませんでした。講堂は、1階席と2階バルコニー席から成り、1階部分を2階下に収納して広いスペースを作ったり、壇の両側を仕切って小ホール3つにしたりすることも可能だそうです。ちなみに、卒業式で投げられた帽子は税金による官品なので、後輩たちが後で回収して返納するということでした。

 

私が見学したのは午後だったので、全学生が整列して行進する「課業行進」を見ることができました。授業は各学年やクラスごとに当然異なるわけですが、午後にはまず点呼を実施し、「イチ!イチ!イチニー!」という独特の掛け声でそれぞれの教室に隊列を組んで向かっていきます。1年生は共通科目、2年生からは陸・海・空に分かれるそうです。この進路は、説明によると「①本人希望、②適正、③神の声」によって決められるとのこと。陸・海・空の比率は2対1対1だそうで、海と空は少し入るのが難しいようですね。振り分けられてからは、なんとその後の自衛隊人生30数年は変えられず、不満なら辞めるしかないということです。学内には、戦車や戦闘機も展示されていました。

 

 

全寮制なので、一般大学にあたる教育課程に入った学生たちは、ここで4年間「規律正しい生活」を送ることになります。部屋は1年生から4年生までの8名で1室、説明では「4年生は神、3年生は人、2年生は奴隷、1年生はそれ以下」ということでした。防大には、新入生に対し2年生の教育担当者がつく「対番制度(たいばん)」があり、生活のすみずみまで1対1で指導するということで、一生の絆となるそうです。4年間をみっちりと過ごす防大は、出身者にとっては説明どおりまさに「第二のふるさと」なのでしょう。

 

愛妹、今回の安保法制の成立で、彼らの生活や仕事はどのように変わるのでしょうか。公務員の自衛官にとって、法律が全てです。軍事組織の拡大が法律で裏づけられたことは、大きな意味を持ち、不安は拭えません。「安保法制成立に思う」ことをあなたに書きました。愛妹、あなたはどのようにこの事件を考えるでしょうか。 

 

 

★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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