【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第6回

アメリカ海軍兵学校見学ツアー

  

愛妹。今回は日本を離れ、米国メリーランド州アナポリスにある海軍兵学校(United States Naval Academy=USNA)の見学ツアーに行ってきました。USNAは、ワシントンDCから車で1時間弱の美しい小さな港町にあります。様々な色の帆がはためくヨットハーバーの奥にあり、日本では保養地の葉山に海上自衛隊の横須賀基地がある感じでしょうか。日本は規模が小さいので、前回紹介した防衛大学校では陸・海・空全ての幹部自衛官となる学生を養成していますが、アメリカではUSNAが海軍と海兵隊専門の士官学校となり、その他に陸軍士官学校(United States Military Academy=USMA、ニューヨーク州ウェストポイント)と空軍士官学校(United States Air Force Academy=USAFA、コロラド州コロラドスプリングス)が別に存在します。いずれも防大のアメリカ版といえるでしょう。高校を卒業した23歳までの学生が対象で、卒業すると理学士号(Bachelor of Science)が取得できます。 

 

 
海軍兵学校
 

USNAでは、1976年から入学が認められるようになった女性を含め、約4300名が学んでいます。2018年のクラスには17618名の応募があり、合格者は1192名ということなので、かなりの難関といえそうです。合格者の内訳は、男性889名に対し女性303名、13名が外国人で出身国は12にのぼるとのこと。試験は、高校の成績に加え、身体検査、面接、論文などが課されます。「人種や性別による差別は一切ない」ということで、約3分の1を占める女性にとって訓練は相当きついものだろうと想像されます。とはいえ、構内で見かけた制服の女性たちは皆とても美しく、いわゆる「男まさり」という雰囲気だけではなさそうです。卒業後は、5年間の兵役が課されています。

 

見学は、日本で行われている防衛省・自衛隊関係の見学ツアーと同じように、ツアー係に案内されての75分です。日本のツアーがそもそもアメリカをお手本にしたものなのだとよくわかりました。まず入り口でパスポートを提示し、簡単な荷物検査を受けます。ビジダーセンターでツアーの申し込みをしますが、日本と違って有料で大人一人10.5ドル、決して安くはありません。ツアーの前後に自由に観ることのできる15分のビデオが、30分おきに上映されています。このビデオによると、USNAの基本精神は「Honor(道義)」「Corrage(勇気)」「Commitment(献身)」で、防大の床にあった「Honor(廉恥)」「Corrage(真勇)」「Propriety(献身)」の言葉が思い出されました。4年間を共に過ごす学生たちは生涯にわたる友情を育み、道徳的・精神的・身体的にみっちりと鍛えられるということです。

 

兵学校の入り口は地味で小さいのですが、中はさすがに広くとても綺麗です。教授たちが住んでいるという素敵な家並みを抜けて、まずプール等のアスレチック施設があるレジューンホール(le June Hall)を見学します。アメリカでも海軍と陸軍は宿敵のようで、あちこちに「BEAT ARMY(陸軍を倒せ)」というサインを見かけました。防大もそうですが、学生たちは何かの体育サークルへの所属が義務づけられており、その最高峰ともいえるのがアメリカンフットボールです。毎年行われるARMY-NAVY GAMEはかなりの盛り上がりを見せるようで、NAVYが優勝した時の金のボールが誇らしげに飾られていましたよ。

 

 
ARMY-NAVY GAME の金ボール

 

次は、バンクロフトホール(Bancroft Hall)という学生寮を見学しました。ここは世界で二番目に大きい寮だそうで、日本の「寮」というイメージからはかけ離れた、まるで市庁舎のような巨大で立派な石造りの建物です。なんと約8キロメートルにも及ぶ廊下と約13万平方キロメートルの床面積を誇るとか。中の天井の装飾も見事で、正面のメモリアルホールには「Don't give up the ship(船を諦めるな)」という言葉が掲げられていました。

 


学生寮

 


メモリアルホール

 

ツアー中に「Japan」という言葉が二回出てきました。一回目は、日本海軍の魚雷が展示されているところです。アメリカ海軍にとって日本は宿敵、相当のダメージを与えられながらも打ち負かした相手なのでしょう。二回目は、ペリーが沖縄から持ち帰ったというお寺の鐘のレプリカの説明のときでした。ペリーは浦賀に来る前に、当時の琉球に寄港しており、1854年の日米和親条約締結後に琉米修交条約を締結しています。圧倒的な軍事力=海軍力を背景に、当時のアメリカは日本や琉球に不平等条約を結ばせているので、その鐘は当時の「功績」の象徴のように私には見えました。

 

 
ペリーが沖縄から持ち帰った鐘のレプリカ

 

愛妹!これがアメリカから見た日本なのだと、私は本当に本当に目の前が真っ暗になりましたよ。アメリカにとって日本は同盟国などでは到底なく、敗戦国であり植民地なのです。ツアーの案内係も見学者たちも、日本がすったもんだの末に安保法制を可決し、暴走する政府への不安・不満が社会に渦巻いていることなどまるで知らないようでした。ツアーに参加している限りは、日米同盟(Japan-US Alliance)など虚構にすら感じました。そもそも「alliance」の訳語である「同盟」は、いかにも対等な関係を想像させますが、「提携」とでも訳したほうがその不平等性を少しは表現できるのではないでしょうか。

 

愛妹。USNAには海上自衛官が派遣されており、教官として勤務しているようですが、彼らはあの沖縄の鐘を一体どんな気持ちで見ているのでしょうか。合図として頻繁に鳴らされるという沖縄の鐘の音が、米軍基地を抱える沖縄の悲鳴のように思われて、私はかなり憂鬱な気持ちで美しいアナポリスの街を後にしたのでした。

 

 


★須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」トップページはこちらです。
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★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

 

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