【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第8回

艦艇公開「護衛艦さみだれ」

 

 

愛妹。安保法制に揺れた今年も、もう終わりですね。9月に成立したこの法案により、自衛隊の役割は大きく拡大することになりました。存立危機事態とされる場合は、集団的自衛権の行使が可能となり、武器の使用が可能となる条件も大幅に緩和されました。自衛隊が海外に出て行く機会が、今後ますます増えて行くと予想されます。海上自衛隊は、1991年のペルシャ湾掃海作業のために、陸・海・空のなかで最も早く海外での活動を経験しました。今年の最後は、海上自衛隊の呉地方総監部で毎週日曜日に行われている、第1庁舎見学と艦艇公開のことを書きますね。

 

呉は、海上自衛隊というよりも「海軍」の街、といったほうがしっくりきます。江田島の海上自衛隊第1術科学校に行った時も思いましたが、呉には明治からの大日本帝国海軍の建物や砲台跡がいくつも残り、セーラー服の水兵たちがそこここから現れてくるような独特の雰囲気があります。瀬戸内海に面した呉の港は、小さな入り江がいくつも連なる天然の良港と言われており、中世に活躍した村上水軍の本拠地でもあった古くからの軍事的要所です。現在でも港周辺には造船所がひしめき、戦艦大和を造ったころの栄光を今でも誇りとしているのを随所に感じます。

 

第1庁舎見学は1日2回、庁舎から車で5分ほどの昭和埠頭で行われる艦艇公開は1日3回。時間をうまく合わせると1日で両方見学することが可能です。自衛隊の他の見学ツアーと同じように、事前の申し込みが必要で、さらに当日には写真付きの身分証明書が必要です。国家の軍事施設なのでセキュリティが厳しいのは当然とはいえ、毎回いい気持ちがしないのも事実ですね。

 

第1庁舎は、旧呉鎮守府庁舎として1907年に完成した、レンガと御影石で出来た美しい建物です。敷地内にある一番古い建物は1889年のもので、現在でも事務所として使われているそうです。外壁は「イギリス積み」という積み方ですが、レンガは広島産という説明がありました。建物正面だけでなく、海を正面とすることから、裏側の外観にも手を抜いていないということでした。2011年12月に公開された「聯合艦隊司令長官山本五十六」では、この第1庁舎でロケが行われ、呉地方総監部からもエキストラ出演等の撮影協力が行われました。


海上自衛隊呉地方総監部第1庁舎

 

第1庁舎の見学者は40名ほどでしたが、艦艇が公開される昭和埠頭に行くと、大手旅行会社のツアー客を含めて大勢の人が集まっていました。本物の艦艇に乗船できる機会はめったに無いので、やはり人気のイベントのようです。私は、以前横須賀の近くに住んでいたので、艦艇や潜水艦は珍しくなかったのですが、これほどたくさんの艦艇を見たのは、呉が初めてでした。昨年完成したばかりという日本最大級の浮橋に、近年大型化してきているという艦艇が4隻繋留され、周囲にもいくつもの艦艇が待機していました。

 


昭和埠頭の大型艦艇

 

私が乗ったのは、長さが151メートル、幅が17.4メートルの護衛艦さみだれです。急な傾斜のタラップを上がり、甲板の上をぐるりと一周見学できるようになっています。近くで見る艦艇はやはり迫力があり、子どもが機関車に夢中になるときのような独特の魅力があるのも事実です。しかし同時に、すぐ触れるところに機関砲や誘導弾があるのは、本当に恐ろしく感じました。案内の自衛官の説明に、見学者は熱心に耳を傾けて、うなづいたり感心したりしていました。見えるところは写真を撮ってもいいので、皆嬉しそうにスマートフォンで撮影していましたよ。

 


護衛艦さみだれ

 


90式艦対艦誘導弾の説明板

 

愛妹、もしかしたらあなたは、こうした見学者はほとんどがマニアなのかな、と思っているかもしれませんね。でも、全くそんなことはありません。この艦艇公開でも、他の自衛隊のイベントやツアーでも、ほとんどは40代以上の夫婦や子ども連れの家族です。彼らがことさら軍事に関心があるようには、私には思えません。彼らにとっては、自衛隊のツアーであっても消費イベントの一つ、しかも無料で楽しめるエンターテインメントにすぎないのでしょう。私はそれこそが自衛隊広報が成功している理由であり、裏を返せば、ソフトなナショナリズムが進む土台ともなっていると考えています。

 

今年10月18日、自衛隊観艦式が行われました。防衛省のホームページによれば、観艦式とは「自衛隊の最高指揮官(内閣総理大臣)が艦隊を観閲することにより、部隊(隊員等)の士気を高め、国内外に自衛隊の精強さをアピールすることまた、国際親善や防衛交流を促進することや、国民の皆様に自衛隊に対する理解を深めていただくことを目的」とするものです。毎年1回、陸・海・空の交代制で行われ、今年は海上自衛隊による観艦式でした。安倍総理大臣、麻生副総理、中谷防衛大臣らを乗せた護衛艦くらまをはじめ、抽選に当たった一般見学者を乗せた何隻もの艦艇が、横須賀沖でデモンストレーションを行いました。今年3月に就役し、一部の人々からは空母ではないかと批判された、全長250メートルほどもあるヘリコプター搭載護衛艦いずもも参加したということです。

 

愛妹。本当にデモンストレーションだけで済むのなら、大きな船での航海が心踊るものであるのは間違いありません。しかし、私がすぐ間近で見た艦対艦ミサイルが発射されるかもしれないことを考えると、暗澹たる気持ちになります。ISによるテロが続き、欧米諸国と中東との亀裂がますます鮮明となった1年でもありました。強固な対米追従路線の安倍政権により、日本もその紛争を対岸の火事のように眺めているわけにはいかないでしょう。

 

どうか来年が、今年よりも平和に満ちた年になりますように。

 



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★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回
「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回
「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」

 


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

 

 

 

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