【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第9回


アニメ『ガールズ&パンツァー』

 

愛妹。今回は、自衛隊に関係するアニメーションのことを書きたいと思います。ここ数年、「萌え」とミリタリーを組み合わせた「萌えミリ」と呼ばれる作品が注目されています。なかでも、第二次大戦中の空軍兵器をモチーフとした『ストライクウィッチーズ』や旧日本海軍の戦艦を擬人化した『艦隊これくしょん』など、兵器などのメカと美少女が合体した形態の「メカ少女」と呼ばれるジャンルが、特に人気があるようです。どちらも「萌えキャラ」と呼ばれる幼児的な媚態の女性キャラクターが主人公になっていますが、もうだいぶ前から、自衛官募集ポスターも「萌えキャラ」のオンパレードになっています。自衛官の募集業務は、各都道府県にある地方協力本部(地本)がそれぞれ行っていますが、徳島地本が2010年度に初めて萌えキャラをポスターに起用して以来、各地の地本でもこぞって同様のポスターを制作するようになりました。こうしたなか、自衛隊も協力する「萌えミリ」アニメとして登場したのが、『ガールズ&パンツァー』(ガルパン)です。

 

   

左右ともに自衛官募集のポスター


ガルパンは、2012年10月からTOKYO MXで放送されたアニメーションで、茨城県大洗町が舞台となっています。戦車を使った武道である「戦車道」が、茶道や華道のような大和撫子のたしなみとされているという設定で、「萌えキャラ」の女子高生たちがあくまで部活動のように戦車で戦うストーリーです。大戦中に使用・開発された実際の戦車と実弾を使うというルールですが、ヘルメットすら被らずに対戦してもほとんど怪我もせず、もちろん殺しあうわけでもありません。このような徹底したファンタジーとリアルな戦車戦という対象的な描写が話題となり、現在に至るまで一部熱狂的な人気を誇っているのです。

 


大洗磯前(いそさき)神社の巨大な絵馬


私は、ガルパンの舞台となっている大洗に3回行ったことがあります。1回目は、2009年に名物のあんこうを食べに行きました。漁港に行くと、あまり商業化されていない、のんびりした雰囲気の催しをやっていたのを覚えています。2回目は、東日本大震災の影響がまだ残る2011年秋でした。大洗にも津波が押し寄せ、死者こそ出さなかったものの大きな被害を受け、役場の壁には津波の最高水位を示す筋が残されていました。住宅街には全壊、半壊した跡と思われる空き地がぽつぽつとあり、屋根にまだビニールシートがかかっている家もあって、とても寂しい雰囲気でしたね。3回目は、ガルパンの現地調査として2014年4月に行ったのですが、大洗全体がガルパンの街となって活況を呈していて本当に驚きました。


JR大洗駅は、構内の観光案内所が「ガルパン案内所」と言ったほうがふさわしいほどで、キャラクターグッズ、関連商品、ポスターなどが展示されているのはもちろん、壁にびっしりと貼られたホテルや店などの手書き広告には、そのほとんどにガルパンのキャラクターが描かれていました。案内所ではガルパンのストーリー世界を楽しむための街歩きマップを配布しており、職員も非常にガルパンに詳しく、丁寧に説明してくれます。ガルパンを使用した町おこしで中心的役割を果たしている商工会の入口には、ガルパンのメインキャラクターの等身大パネルが飾ってありました。商工会の方に聞くと、製作会社のバンダイビジュアルがストーリーを含めたプロジェクト全体を企画し、事前に大洗町への調査やストーリーへの登場許可などの根回しを行い、現在は商店などの著作権も管理しているということでした。商店の店先には、それぞれ異なるキャラクターのパネルが展示してあり、多くのファンが訪れるようになっています。当然ながらその経済効果は絶大で、年間7億円強にもなるそうです。

 


JR大洗駅構内、観光案内所の手書き広告

 


商工会入口にあるガルパン・メインキャラクターの等身大パネル

 


大洗で毎年開催される「あんこう祭」と「海楽フェスタ」という2つの大きなイベントには、ガルパンと共催するようになって以降、人口1万7千人ほどの街に5万から10万人もの人が押し寄せるほどになっています。このガルパン人気に注目した自衛隊は、まず2013年の海楽フェスタで74式戦車を展示し、その後は、毎年7月に自衛隊が独自で行っていた艦艇を公開する「海の月間イベント」をガルパンとコラボさせ、最新式の10式戦車を展示するなど同じく多くのファンを魅了してきました。とはいえ、自衛隊が広報戦略として一方的にガルパン人気に便乗しているわけではなく、むしろ大洗町が町おこしのために自衛隊の協力を要請しているのも事実です。戦車を描くアニメと自衛隊との良好な関係に反対する声も多いですが、ガルパンのことを楽しそうに話す商店街の人々の笑顔には、良くも悪くも政治性を見ることはできません。

 

これだけ人気があるにもかかわらず、ガルパンのストーリーとしては、テレビ放送分の全12話と総集編2話、そして2014年に発売されたOVAが1本あるだけでした。しかし、昨年11月にようやくファン待望の劇場版が公開され、1月14日現在で興行収入9億円を突破、1月に入っても公開劇場数が拡大するというヒットとなっています。私も先日劇場で観てきて、とても面白かったですよ。テレビ版もOVAも全て観ていますが、登場人物のほぼ全員が萌えキャラの女子高生で、戦車戦という設定もかなり無理があるにもかかわらず、素直に楽しめるよくできたアニメーションだと思います。

 

そういうわけで、実は私もガルパンファンの一人かもしれません。ただしいつも気にかかるのは、産(アニメ産業)、官(大洗町、茨城県、自衛隊)、民(大洗の商店街、ファン)がそれぞれ利益を享受している状態が、戦中の報国会や隣組のありかたをどことなく彷彿とさせることでしょうか。彼らに見られる強力な「絆」は、非常事態であった震災時のスローガンそのままです。そしてその「絆」は、どんなに純粋な気持ちから発したものであれ、国家権力にとって都合の良いものであることは明白でしょう。

 

 

★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回
「艦艇公開 護衛艦さみだれ」

 

 


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです

 

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