【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第10回

海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」

 


愛妹。今回は、巨大な潜水艦がそのまま広報施設の一部となっている海上自衛隊呉史料館、通称「てつのくじら館」のことを書きたいと思います。神奈川県に住んでいたころ、横須賀で何度か潜水艦を見たことがありますが、結構小さいなというのが印象でした。しかし、陸から見える部分は当然ながらほんの一部、実はとても大きいのですよね。「てつのくじら館」で屋外展示されている潜水艦「あきしお」は、なんと全長76.2メートル、ジャンボジェット機ほどもあるその大きさは、展示館の建物前面をすっぽり覆ってしまうほどです。海上からでもよく見えるその巨体には、本当に圧倒されます。2007年4月に一般公開されてから、約8年で入館者が300万人を突破した人気の理由には、こうした特徴的な外観も挙げられるでしょう。

 


潜水艦「あきしお」

 

潜水艦は巨体であっても、その中はよく知られているとおり、とても狭いです。一部が見学コースとなっていますが、通路にはいろいろな配管や部品が飛び出していて、ただ歩くだけでも窮屈でした。「艦内生活体験コーナー」では、乗員が使っているベッドに寝てみることができるのですが、とにかく上下左右とも信じられないほど狭く、説明のパネル通りに体を入れないと怪我をする危険があるほどで、辛うじて寝返りがうてるかどうかという感じ。寝ぼけて起き上がったら、思いきり頭をぶつけることは確実です。ここで75名もの乗員が何ヶ月も潜って任務を行うのですから、本当に大変な仕事だと思います。潜水艦の中では24時間誰かが仕事をしており、しかも太陽を見ることができないので、時間の感覚を失いがちです。なので、時間で館内の照明の色を変えて昼夜が分かるようにし、また、金曜日をカレーの日にすることで曜日の感覚を保っている、ということでした。

 

 
「艦内生活体験コーナー」乗員ベッド

 


艦長室

 

潜水艦では任務そのものが秘密なので、ルートや行き先はもちろん、いつ出発していつ帰るかなどを家族に知らせることすらできません。別の艦の同僚が何をしているのか知らない、というのも普通のようです。国家の安全保障というのは非常にデリケートなので、必然的に機密事項が存在するのは仕方がないし、当然ともいえるでしょう。とはいえ、日本の安全、あるいは任務にあたる自衛官の安全を確保するための機密を守りつつ、一方で国民の知る権利を行使して国家や軍の暴走を防がなければなりません。このバランスはとても難しいですが、常に意識しなくてはならないことだと思います。

 

「てつのくじら館」は、潜水艦の展示のほかに、掃海の紹介が主たる目的となっています。「掃海」とは、海面や海中にある機雷を排除し、安全な航行ができるようにすることです。この史料館の展示を見て初めて知ったのですが、海上自衛隊は相当この掃海作業を行っており、世界のなかでも高い技術を持っています。安倍首相が、中東ホルムズ海峡の機雷掃海を集団的自衛権行使の例として挙げた背景には、この既に蓄積された経験があるのです。

 

機雷には、ずいぶんたくさんの種類があるようです。海面に浮くタイプ、海面の浮きから釣り下がっているタイプ、海底に設置されるもの、あるいは海底に設置された重りから水中に浮くものなど、よくまあいろいろと考えるものだと呆れると同時に、恐ろしくなります。これらの様々な特徴に合わせて、掃海作業のやり方も変わるのですが、場合によってはダイバーが手作業で行うようです。その作業には、言うまでもなくかなりの危険が伴います。事実、80名近くにものぼる人が、戦後この作業で亡くなっているということでした。

 

 
機雷の種類

 

掃海の展示のなかで一番驚いたのは、1950年から始まった朝鮮戦争のときに、海上自衛隊発足前の海上保安庁が、米軍の要請により朝鮮半島のすぐ近くで掃海作業に従事していたことです。もちろん日本の海域ではありません。当時の吉田茂首相率いる政府は、秘密裏にこの掃海派遣を行い、述べ43隻のうち1隻が座礁沈没し、1名死亡、18名負傷という犠牲を出したにもかかわらず、国会質疑でもその事実を認めませんでした。2ヶ月弱の任務で27個の機雷を処分したことで、米海軍からは高く評価されたということです。この事実だけでも大変ショックですが、最も絶望的に感じたのは、この内容がすべて展示パネルとして「誇らしげに」書かれていることでした。「講和会議の成功と国連に協力する政府方針に基づき」とありますが、国民に対して事実を隠し、アメリカへの軍事協力を勝手に行うことがどうして許されるのでしょうか。

 

 
「誇らしげ」な展示


愛妹。現場の自衛官らは、政府の決定に従って黙々と任務を遂行するしかありません。彼らを必要以上の危険に合わせないためにも、政府の動向をしっかりと注視しなければと思うのです。

 

 

★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回「艦艇公開 護衛艦さみだれ」
★連載第9回アニメ『ガールズ&パンツァー』

 

 


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[プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、日本学術振興会特別研究員。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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