【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第14回

防府南基地・開庁記念行事

 

 

愛妹。先月は、山口県防府市で開催された2つの航空自衛隊のイベントに行ってきました。5月21日には防府南基地、翌22日は防府北基地で、それぞれ別の催しが開かれました。今回は、最初の南基地のイベントについて書こうと思います。

 

航空自衛隊防府南基地は、1943年から敗戦の1945年までの間、旧海軍防府通信学校として当時の海軍飛行予科練習生の教育が行われていたところです。その流れを汲んで、現在では新たに採用された隊員に必要な教育等を行う部隊である航空教育隊が置かれています。ホームページによると、「航空自衛隊に新しく入隊し、航空教育隊に着隊した隊員は、基地内の隊舎で寝起きし、規則正しい訓練生活を送ることになります。6:00に起床し、直ちに点呼。朝食を摂り、8:15から課業が始まります。1時間の昼食時間を挟んで、17:00まで訓練は続きます。その後夕食を摂り、22:00に消灯。自衛官候補生は11週間、一般曹候補生は14週間で航空教育隊での生活は終わり、一人前の航空自衛官としての最初の階段を上り、卒業していきます」ということです。

 

「防府市制80周年記念 第62回防府南基地 開庁記念行事」というのが、今回のイベントの正式名です。今年で市制施行80周年を迎えた防府市では様々な催しが企画されており、そのなかにこの2つの自衛隊イベントも入っていました。最初に行われた式典では何人かが式辞を述べましたが、教育隊トップである1等空佐と衆議院議員の挨拶のときには、整列していた隊員一同が直立不動だったのに対し、防府市長の挨拶のときは足を開き「休め」の姿勢をとり、明らかに民間人を区別していたのが印象的でした。

 


「防府市制80周年記念 第62回防府南基地 開庁記念行事」

 

航空自衛隊の代表的な隊歌である「青空遠く」が隊員全員で歌われたのですが、まず女性の声が多いのに驚きました。同じ制服を着ているので遠目では男女の区別がわかりませんが、観閲行進のときに間近に隊員らを見ると、いかに女性が多いか分かります。50名ほどから構成される12の区隊が、片手に銃を持ち、拳を握った手の甲を上にしてまっすぐ胸の前まで振り上げる独特のスタイルで行進していくのですが、印象としては、4分の1から3分の1くらいが女性隊員のように感じました。航空教育隊には、年間学生養成数がトップの埼玉県にある熊谷基地もあり、また女性隊員は全員防府南基地に集められるということなので、決して新任自衛隊員の女性割合がそこまで多いというわけではありません。とはいえ、そんなに多くの女性隊員をまとめて見たのは初めてだったので、彼女たちは一体どういう経緯で重い銃を持ってここで行進しているのだろう、と思わずにはいられませんでした。

 


行進する女性の自衛隊員

 

このイベントでは、子ども向けのアトラクションが多かったです。初めての試みということでしたが、自衛隊員が補佐しながらの小型パワーショベルの体験操作や、自衛隊車両との綱引きなど、隊員や車両などと無理なく触れ合うような企画がありました。子どもチームと隊員チームとの玉入れ対決などは、むしろ隊員が子どもたちに遊んでもらっているようで、非常に楽しそうでしたよ。また、自衛隊車両の体験試乗も行われており、整理券が配られるほどの盛況ぶりでした。小さな子どもには消防車が人気でしたが、私は1時間以上待って軽装甲機動車に乗ってみました。迷彩には塗られていますが固定されている武器はなく、大きなジープといった車両です。運転席と後部座席に自衛隊員が一人ずつ乗っており、参加者は助手席と後部座席に同じく一人ずつ座ります。隊員の安全確保のために、車体が大きいわりに窓が小さくて視界が狭いです。会場の一区画をぐるりと一周する短いドライブで、スピードを出すわけでもないですが、いかにも燃費が悪そうな感じでした。

 


小型パワーショベルの体験操作

 

昼には、翌日の北基地での航空祭の予行演習を兼ね、ブルーインパルスと米軍機のアクロバット飛行がありました。5機のブルーインパルスが一斉に上昇し、5方向に広がって「星」を描く「スタークロス」、2013年春に放送されたTBSドラマ「空飛ぶ広報室」の最終話でも披露された、2機のブルーインパルスが左右に分かれてそれぞれハートの片側ずつを描き、もう1機が左下からハートマークの中央を抜けてスモークの矢を描く「バーティカルキューピッド」など、人気のアクロバットが次々と披露されました。米軍のF16戦闘機による飛行はさすがにスピードが格段に速く、自衛隊員からも歓声が上がるほどでした。

 


ブルーインパルスによる「バーティカルキューピッド」

 

この南基地でのイベントは、もちろん一般に公開されていますが、隊員たちの家族が訪れる父兄参観日のような側面もあります。家族らが普段は入れない隊員らの宿舎に入って一緒にお弁当を食べたり、屋上で曲芸飛行を楽しんだりする光景があちこちで見られました。また、高校や大学の学園祭のように男女が出会う場ともなっているようで、制服の自衛隊員のグループと地元の女の子たちが連れ立って歩いているのも見かけましたよ。普段は厳しい訓練をしている若い隊員たちが、屋台のかき氷や焼きそばなどをほお張り、楽しそうにおしゃべりしながら羽を伸ばしていて、戦争中も休みの日の兵士はこんなふうだったのだろうかとふと思ったりしました。

 

会場内には、通常の自衛隊イベントと同様に、ペトリオットミサイル(PAC3)をはじめとする防空火器や救難装備品、災害時に活躍する造水機や野戦釜などが展示されていました。ペトリオットミサイルとは地上配備型の対地空誘導弾のことで、最近では北朝鮮のミサイル発射が懸念されるたびに、防衛大臣によってPAC3による「破壊措置命令」が出されています。見慣れないゆるキャラが1体歩いていたので何かと思えば、なんとPAC3のゆるキャラでしたよ! 「パックM司」という名前で、「パックさん4兄弟」の3番目ということです。他に3体もいることにも呆然としますが、自衛隊に限らず、なんでも「ゆるキャラ」「萌えキャラ」で脱政治化する日本全体の風潮には、懸念と嫌悪を抱かずにはいられません。式典の議員の挨拶のなかには、「北朝鮮ミサイル」「中国の領空侵犯」という文言が入っており、当然ですが軍事は政治のなかでも最もハードな論点です。防府南基地の開庁行事は全体的にほのぼのとしていましたが、どんなに楽しいイベントであれ、それを利用する政治側は決してほのぼのとはしていない、ということを忘れてはならないでしょう。

 


ペトリオットミサイル(PAC3)



ゆるキャラ「パックM司」

 

 


★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回「艦艇公開 護衛艦さみだれ」
★連載第9回「アニメ『ガールズ&パンツァー』」
★連載第10回「海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」」
★連載第11回「航空自衛隊春日基地見学」
★連載第12回「陸上自衛隊久留米駐屯地一般開放」
★連載第13「大刀洗平和記念館と戦跡めぐり」

 
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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

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