【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第15回

防府航空祭2016

 


愛妹。前回は、山口県防府市で5月21日に開催された防府南基地での開庁記念行事について書きましたが、今回は、翌22日に防府北基地で行われた防府航空祭のことを書きますね。北基地と南基地は、一番近いところでは500メートルくらいしか離れていないのですが、完全に別組織ということです。2本の滑走路がある北基地の総面積は約77万坪、東京ドーム約55個分もあり、地図で見ると南基地の4、5倍の広さはありそうです。終戦間近の1944年4月に日本陸軍防府飛行場として開設され、敗戦後は米軍に接収されました。


北基地には、4つの組織からなる航空自衛隊第12飛行教育団が置かれており、飛行教育群では飛行訓練及びパイロット学生の教育・育成、航空学生教育群ではパイロットを目指す21歳未満の隊員の教育、整備補給群では整備・補給によるパイロット学生の教育支援、基地業務群では北基地での後方業務全般をそれぞれ担当しています。航空自衛隊にもさまざまな任務があるわけですが、北基地はそのなかでも飛行・パイロットに特化した訓練基地といえます。天候が比較的安定しているので、飛行教育には恵まれた環境であると公式サイトに書かれていました。また、北基地の大きな特徴として、陸上自衛隊第13飛行隊が所属していることも挙げられます。正式には、航空自衛隊北基地内に陸上自衛隊防府分屯地が所在する、ということになるそうです。

 

前日に引き続き快晴の航空祭日和のもと、イベントが開催される朝9時前から大勢の人々が会場に押し寄せていました。ブルーインパルスと米軍機F16による曲技飛行は、前日の予行演習と全く同じ内容なのですが、ほかにも展示・飛行する飛行機の数が多いためか、南基地の数十倍とも思える来場者がいて驚きました。米軍関係者も来ていましたよ。とにかく大きな望遠カメラを持っているマニアが多く、ブルーインパルスなどはもちろん、訓練機T7の編隊飛行やF2戦闘機による機動飛行、陸上自衛隊によるヘリコプター訓練風景などを熱心に撮影していました。この航空祭も防府市制80周年記念行事を兼ねていたので、特別ペイントが施された飛行機も展示されていました。

 

 

防府航空祭2016 曲芸飛行(動画)

 

曲芸飛行は前日に堪能したので、私のこの日の主目的は、会場の端のほうで開催されていた戦車体験試乗です。戦車の試乗には整理券が必要なので、朝8時半には会場に行ったのですが、9時からの午前の部は早くも配布終了で、13時から開始の午後の部の整理券を求めて既に人が並び始めていました。そのまま並べば11時半から配布される券は確実に手に入るということなので、5月とはいえ30度を超える炎天下の野原で3時間近くも待つことにしました。周囲で同じように並んでいるのは、家族連れや老夫婦、20-30代のカップルなどで、いわゆる軍事マニア的な人はごくごく少数でしたね。

 


戦車試乗整理券

 

プラチナチケットとも言えそうな整理券をようやく手に入れ、74式戦車に乗りました。さすがに戦車内部に入るわけではなく、戦車上部後方にイベント用に特別に付けられたカゴの中に、2列10名ほどで立ち、ほんの2分ほどフィールドをくるりと1週します。私は前方に立ったのですが、側面にある排気口に近く、かなりの熱気を感じました。ブルン!という大きな音のあと、バスと同じように車体がゆっくり上に上がります。しばらく静止してのちに、ガクンと動き始めました。立っている一般来場者を乗せているので、普段の何倍も丁寧で慎重な運転なのでしょうが、車体自体が大きいうえに、「快適な乗り心地」を目指している車でもないので、ちょっとした振動がすごく大きく感じます。音も思った以上にうるさく、いかにも燃費が悪いという印象でした。砲撃をする際は、もっともっと凄まじいエネルギーを消費するのでしょう。

 

 

防府航空祭2016 戦車体験試乗(動画) 

 

戦車体験試乗を待っている間、そばで展示されている自衛隊車両を見ました。前日に体験試乗した軽装甲機動車や87式偵察警戒車などに、子どもたちが嬉しそうによじ登って記念撮影していました。普段見慣れない大きくて強そうな車、しかもこのように上に登るのを許可しているのは珍しいので、子どもが喜ぶ気持ちはよくわかります。しかし、この光景には戦車の試乗以上に複雑な気持ちを抱かざるを得ませんでした。戦車のほうは本物に乗るとはいえ、イベント用に加工されているので、ある意味「ニセモノ」ともいえます。一方、戦闘車両のほうは加工なしのそのままの状態なので、車両自体は何度も見ているにもかかわらず、子どもたちが乗っていることでなんだかすごくグロテスクに感じましたね。

 


自衛隊車両の上に立つ子ども

 

愛妹。「地元と自衛隊との近さ」は都会にいるとよくわかりません。防府での2日間のイベントには、本当にたくさんの人が来場して楽しんでいました。「自衛隊のイベント」というよりは、「地元の大きなお祭り」のようでした。これまでも何度も経験しましたが、彼らに政治的な意識、ましてやイデオロギーなど全く無いでしょう。その無邪気さこそが政治に利用されるわけですが、一体彼らにどうすればそれを伝えられるのか、私はいつも考えてしまいます。

 

 

 ★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回「艦艇公開 護衛艦さみだれ」
★連載第9回「アニメ『ガールズ&パンツァー』」
★連載第10回「海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」」
★連載第11回「航空自衛隊春日基地見学」
★連載第12回「陸上自衛隊久留米駐屯地一般開放」
★連載第13回「大刀洗平和記念館と戦跡めぐり」
★連載第14「防府南基地・開庁記念行事」

 
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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

 

 

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