【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第18回

平成28年度自衛隊記念日観閲式

愛妹。秋晴れのなか、10月23日におこなわれた自衛隊記念日観閲式(中央観閲式)を見てきました。

防衛省のホームページによれば、観閲式の目的は「自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣(観閲官)の観閲を受けることにより、隊員の使命の自覚及び士気の高揚を図るとともに、防衛力の主力を展示し、自衛隊に対する国民の理解と信頼を深める」ことです。陸・海・空で1年ごとの持ち回りとなっており、今年は陸上自衛隊により朝霞駐屯地で開催されました。

開始は午前10時半となっていましたが、混雑を予想して早めの到着をめざしました。無料シャトルバスが出ている和光市駅に9時過ぎには着いたのですが、案の定バスを待つ人がもう長い列をつくっています。さらに、バスが着いてからも実際の会場までかなりの距離を歩かねばならず、席に着いたのは10時を回っていました。

すでに、広いグラウンドには、制服やいわゆる迷彩服の作業服姿の約4000名の隊員が整列しています。陸上自衛隊しかいないのかと思っていたら、海自・空自の隊員も男性・女性それぞれが並んでいました。開始前の国旗の掲揚の際には、音楽隊による君が代の演奏を聴きながら、観客含め全員が起立して日の丸を見つめました。



整列する隊員
整列する隊員

 

富士総合火力演習のときもそうでしたが、先導するジープに続き、安倍晋三内閣総理大臣や稲田朋美防衛大臣らを乗せた黒い高級車が、何台も連なって入場してきました。正装であるモーニングを着た首相が、隊員らの前をオープンカーに乗って立ったまま一周します。

新聞各紙が報道したように、首相の訓示には熊本地震や北海道の水害などでの自衛隊の活躍に対するねぎらいに加え、「積極的平和主義」や「駆け付け警護」を示唆する「新たな任務」などの言葉が含まれていました。安保法制がいかに世界で支持されているか、細かに例を挙げて説明し、南スーダンへの自衛隊派遣の意義をカンボジアへのPKO活動と並べて延々と強調するなど、ところどころ納得しかねる内容でした。




オープンカーに乗る安倍首相

しかし、最も疑問に思ったのは、内容よりもスピーチの長さです。訓示に要した時間は、愛妹、なんと17分以上! 90分の野外プログラムで、その5分の1近くも話しているというのは、いくら観閲官といえども長すぎますよね。最初は静かにしていた会場の小さな子どもたちは騒ぎ始め、関係者である大人たちの間にも、うんざりしたようなため息とひそひそ声が流れます。

最も大変だったのは、いくら「休め」の姿勢をとっているとはいえ、功績を讃えられているはずの隊員たちでしょう。私が見ている席は、防衛大学校の学生らが整列している後ろ側だったのですが、早々にしゃがみこんだ男子学生の一人は両脇を抱えられて退場、女子学生は何人も途中で座り込んではまた立ち上がっていましたが、一人はとうとうふらふらと倒れてしまいました。

 

倒れてしまった女性学生

倒れてしまった女性学生

 

客席にいる私の周囲の人たちも心配そうに彼らを見ていましたが、とうとう私の後ろのほうにいた年配の男性が「隊員さん! 女の子が倒れているよ!!」と大きな声を出しました。しかし、客席にところどころ配置されている隊員は全員無視、気まずい沈黙が流れました。

もちろん総理大臣を迎えての重要な式典中に倒れるというのは、正直、自衛官としての資質にも関わる問題でしょう。とはいえ愛妹、いくらなんでも、一般人が見ている前で倒れている人を助けないというのは、自衛隊の広報上大きなマイナスだと思いますね。私は、ああやっぱり助けてくれないのか……とガッカリしてしまいました。

もそも女性自衛官は、ふだんは男性と同じ作業服で同じ訓練・任務をしているはずなのに、制服だけはスカートにストッキング、パンプスという格好で「女性らしさ」を強調させられるというのは、本当に納得がいきません。男性にはあまり想像がつかないかもしれませんが、パンプス自体が全く行進に向かないうえに、ふだん作業靴のようなものしか履いていなければ、なおさら靴擦れなどになるでしょう。

中央観閲式を経験したことがある元防衛大生のブログを読むと、1カ月以上も前から行進訓練が開始され、股擦れや脇擦れに苦しみつつも、ほとんど無意識でも揃うように動きを身体に染み込まされるとか。当日は朝3時起床でバスに乗るということで、疲労が極限に達したなかでの本番なのでしょうね。それでも、倒れたりしゃがんだりしていた彼女たちもなんとかその後の長い行進を終えていたので、ホッとしました。

その後は、空挺団によるパラシュート降下や、本当にたくさんのヘリコプターによる編隊飛行などがありました。次は、これもまたたくさんの戦車や戦闘車両を含む軍用車両のパレードが続きます。

 

戦車群

戦車群

 

特筆すべきは、その後の米軍による祝賀飛行です。ヘリコプターに続いて現れたのは、オスプレイ2機でした。それまでは歓声を上げていた観客も、さすがに頭の真上を飛んで行くオスプレイには微妙な反応でしたね。朝霞市、和光市、新座市では、他の自衛隊機と同様に安全対策に万全を期し、迅速な情報提供がなされるよう、三市長連名による要請書が、北関東防衛局に提出されたそうです。

 

オスプレイ

オスプレイ

 

この日も防府の航空自衛隊イベントでも見たブルー・インパルスによる曲技飛行がおこなわれ、青空に綺麗なハートマークを描いて会場を湧かせていました。この中央観閲式では、自衛隊を見つめる一般国民のさまざまな心理を見たような気がします。

 



★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
★連載第3回「海上自衛隊第1術科学校
★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
★連載第5回「防衛大学校見学ツアー」
★連載第6回「アメリカ海軍兵学校見学ツアー」
★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回「艦艇公開 護衛艦さみだれ」
★連載第9回「アニメ『ガールズ&パンツァー』」
★連載第10回「海上自衛隊呉史料館「てつのくじら館」」
★連載第11回「航空自衛隊春日基地見学」
★連載第12回「陸上自衛隊久留米駐屯地一般開放」
★連載第13回「大刀洗平和記念館と戦跡めぐり」
★連載第14回「防府南基地・開庁記念行事」

★連載第15回「防府航空祭2016」
★連載第16回「自衛隊夏まつり・盆踊りフェスタ」
★連載第17回「佐世保地方隊サマーフェスタ 2016」

 

 
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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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