【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第20回

自衛隊広報としての『シン・ゴジラ』

愛妹。今年ももうすぐ終わりですね。一年の締めくくりとして、今年大きな話題となった自衛隊協力映画『シン・ゴジラ』のことを書きたいと思います。

 



By 江戸村のとくぞう, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50326546



庵野秀明監督・脚本、樋口真嗣特技監督の『シン・ゴジラ』は、本年7月29日に公開され、12月16日現在で興行収入81億円の大ヒットとなりました。
私は2008年からずっと自衛隊協力映画を研究してきたので、『シン・ゴジラ』という作品の登場、さらにその大ヒットという現象には、深く考えさせられるものがありました。

私が定義した「自衛隊協力映画」とは、自衛隊が公的に協力した一般劇映画を指すので、単に自衛隊がストーリーに登場する映画とは異なります。
協力が実現すると、隊員を含めて制服や無線機というような小物から、ときには戦車・戦闘機・艦艇の出演にいたるまで、無料つまり税金によって提供されます。

2011年から2012年にかけて、私は防衛省に3回取材に入って映画に関する内部資料を調査し、2013年に『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店)として出版しました。
この調査で、自衛隊発足の1954年以降、途中1970~80年代の約20年の実質的な中断期間を挟みつつ、今までに少なくとも40本以上の映画に協力したことがわかっています。




自衛隊の映画協力の歴史のなかで特に重要なのは、平成ガメラシリーズです。このシリーズは『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来(以下、G2)』『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』の3本で、それぞれ1995年、1996年、1999年に公開されました。
いずれも監督は金子修介、特技監督は『シン・ゴジラ』と同じ樋口真嗣、脚本は伊藤和典で、興行面ではさほどのヒットにはなっていないのですが、一部マニアからは高く評価されている作品群です。

これらは、ストーリーのおもしろさやカメラワークの斬新さはもちろんですが、「リアルな自衛隊」を描いたという点で画期的な作品でした。

ガメラやゴジラのような怪獣が突如日本に現れて、バシバシと街を破壊しはじめても、自衛隊はすぐに攻撃することはできません。都道府県知事からの出動要請がなされ、閣議決定を経て、ようやく防衛出動や災害派遣出動がおこなわれます。
文民統制という原則から、内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮官となっており、いくら緊急を要していても自衛隊が勝手に出動することはできないことになっているのです。

平成ガメラ以前の作品は、こうした現実の法律に関してはすべて無視してきました。フィクションなのだから当然とも言えますね。
しかし、平成ガメラシリーズからは、律儀に閣議決定→防衛出動という現実の流れが自衛隊協力映画のストーリーに入れられるようになり、その後の協力作品に脈々と受け継がれることになったのでした。




この閣議決定部分を延々とドラマとして見せたのが、『シン・ゴジラ』だったと言えるでしょう。
とにかく民主主義というのは、会議会議で決定にものすごく時間がかかります。それを緻密に見せたのは庵野監督の個性でしょうし、この会議部分がおもしろかったという感想も少なからずあるようです。

作家の企図や鑑賞者の感想を否定するのはもちろんナンセンスですが、災害時の一般市民のドラマではなく、国家的な重要決定をおこなう官邸部分のやりとりを楽しんでしまうような受動的な現代日本の風潮に、私はとても危機感を感じてしまいます。

私の取材では、当時の防衛庁が『G2』に期待したイメージは、かなり細かく具体的でした。
「超法規的な自衛隊の運用は避け、たとえ緊急時においても遵法的な自衛隊のイメージを与える」「現状の能力相応のイメージを与え“何でも屋”“スーパーマン”的な扱いを避けるとともに、装備品の紹介については過大評価となるイメージを避ける」「隊員個人の強い使命感や人間味など、努めて良い印象をイメージさせる」など、相当ストーリーに踏み込んだ内容となっています。

自衛隊の映画協力は、まず製作側から依頼があり、省内の審査を経ておこなわれるので、これを「検閲」と決めつけるのは無理でしょう。
しかし、多額の制作費の削減と直結する自衛隊の協力を熱望する、製作者側のいわゆる「忖度(そんたく)」を含め、防衛省・自衛隊の意向が娯楽映画に反映される割合は低くはありません。




安倍政権になってから、防衛省・自衛隊が話題になることが多くなりましたが、今年もたくさんの事件がありました。
つい最近では、12月13日に起こった沖縄でのオスプレイ墜落事故があります。

この事故の速報では、「着水」「不時着」という表現が使用されましたが、幸いなことに死傷者は出なかったものの、実際には機体がバラバラになるほどのひどい損傷でした。
しかし、防衛省は事故直後の公表で「不時着」と表現し、もともと安全性への懸念が強かったオスプレイに対して、さらなる警戒感が広がることを阻止したように受け取れました。そして、事故からたった6日で飛行が再開されることになったのです。

平成ガメラの1作目が公開された1995年は、戦後50年の節目でした。アジア侵略の謝罪を盛り込んだいわゆる村山談話が出された画期的な年でもありましたが、その後の日本は残念ながら、新自由主義の深化による鬱屈感と連動した保守的・排他的な空気が常態化していきました。
2001年の9.11同時多発テロ後には世界的な「新しい戦争」が継続し、自衛隊の存在も大きくなっていきました。2011年3.11には東日本大震災が起こり、日本はいまだその打撃から立ち直れずにますます内向的になり、その反動としての攻撃性が増しているように見えます。

愛妹、シン・ゴジラは首都圏を破壊し、放射能で汚染し尽くしました。映画の世界と同じように、現実もまた混迷のなかにあります。
映画と違うのは、『シン・ゴジラ』で描かれなかった一般市民である私たち一人ひとりが、国家の決定をただ待つだけでなく、自分の頭で考え、行動しないかぎり、何も解決しないであろうということでしょう。


 



★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
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★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
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★連載第14回「防府南基地・開庁記念行事」

★連載第15回「防府航空祭2016」
★連載第16回「自衛隊夏まつり・盆踊りフェスタ」
★連載第17回「佐世保地方隊サマーフェスタ 2016」
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★連載第19回「出雲駐屯地創立63周年記念行事・市中パレード」

 
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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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