梓会出版文化賞受賞にあたってのご挨拶

1月19日の梓会出版文化賞授賞式での受賞のご挨拶が『出版ニュース』1月下旬号に掲載されています。以下に全文を掲載させていただきます。


 

「時代と格闘し抗いながら多様な出版活動を継続していく」

 昨年(2016年)11月に小社は創業70年を迎えました。この節目ともいえる年に「梓会出版文化賞」をいただくこととなりました。これまでの出版活動とともに「現在」を高く評価していただき感謝に堪えません。


 この創業年に印象的な出会いがありました。それは、昨年5月の「出版梓会研修」で函館市中央図書館を訪れたときのことです。五稜郭公園に面した素晴らしい図書館でした。それ以上に感動的な出会いが待ち受けていました。『マルクス=エンゲルス全集』全巻が、開架スペースの書棚に所蔵されていたのです。第1巻、1959年10月20日第1刷発行、定価1500円。多くの読者の手に取られている事が一目でわかる状態ではありましたが、まだまだ「現役」を通しているのがよくわかりました。読書の現場で読み継がれている一冊に出会うことができ、幸せと喜びをかみしめました。

 こうした研修会などで全国の書店・図書館を訪問させていただくと、ある年齢以上の方々からは「あの大月書店さんですね」と挨拶をいただき、ある年齢以下の方々からは「御社の専門はどの分野(ジャンル)なのですか」と質問されます。
 確かに、近年の刊行物は哲学・歴史・政治・労働・経済・社会・教育・文化などきわめて多岐で、その内容も時代状況を映した先駆的理論書、あるいは労働組合や国民的な運動の要請に応える書、児童書・学校図書館向け書など「多彩」なものになっています。
 また、その形態も紙媒体の書籍・文庫だけでなく、電子書籍・CD-ROM・DVD・ビデオ・スライドなど、「多用」に他社に先駆けて刊行したものが多数あります。

 「あの大月書店」の大看板=『マルクス=エンゲルス全集』は1959年10月に刊行を開始し、1991年11月に32年もの長い歳月を費やし「別巻4」の刊行をもって完結しました。全49卷・53冊の累計発行部数は143万部を超え、「資本論」巻(全5冊)の累計発行部数は14万7千部。全集を「底本」とした「普及版」は17万6500セットを送り出しました。1996年には、『マルクス・エンゲルス全集』4万頁を画像データ化した「CD-ROM版」として刊行しました。2013年からはインターネット版として『マルクス=エンゲルス全集online』として提供を開始し、現在も生き続けています。
 『レーニン全集』は1953年11月に刊行を開始し、1969年10月に16年に及ぶ期間をかけ全47巻を完結させました。その累計発行部数は168万部となっています。
 社会書房・三一書房との共同会社「国民文庫社」発行でスタートした『国民文庫』は、1952年10月レーニン『帝国主義論』を皮切りにマルクス・エンゲルス・レーニンなどの「古典の翻訳文庫」として定評を得ました。1970年代はじめには全国2300の「国民文庫常備店」に販売を担っていただきました。その累計発行部数ベスト1は『空想から科学へ』77万3千部。
 1973年からは、〈現代の教養〉シリーズとして教育書や自然科学の入門書などを刊行してきました。この中でも1981年3月刊行の『見える学力、見えない学力』は、改訂版も加えると104万4千部のミリオンセラーを記録しています。

 小社の刊行物のなかには、あれもそうだったのかと思われるものがいくつかあります。例えば、田中昌人・田中杉恵著・有田知行写真『子どもの発達と診断』全5巻がそのひとつです。1981年に第1巻刊行、1988年に第5巻で完結しました。写真を多用し乳幼児の「発達」の道筋を心理学・教育学・医学の研究成果を踏まえて具体的・体系的に示し、発達保障のあり方を説いたものです。多くの保育者・親・研究者に評価され全5巻の累計発行部数が28万6千部となり、保育現場や研究室などで現在も読み継がれています。従来の専門分野とは異質の企画に挑戦し、高評を博した一書と考えています。

 これからの大月書店を考えるとき、これまでも社会の矛盾に正面から真摯に向き合い、時代と格闘しながらよりよい社会へ向けて、実践に資するものを提供していこうと取り組んできたとささやかに自負しております。
 しかし、「現在」とはどういう時代なのかと改めて振り返ってみると、グローバルな時代なのに偏狭な「排外主義」が世界を跋扈し、「息を吐くようにウソをつく」と揶揄されても反応せず、声高にウソを言いつづけることがまかり通る世の中になってしまっているのではと危惧しています。
 2016年注目を集めた英単語として、英オックスフォード大出版局が「客観的な事実や真実が重視されない時代」を意味する形容詞「ポスト真実 post-truthを選んだと発表しました。昨年のサプライズ、英国のEU離脱を巡る国民投票や、トランプ氏が勝利した米大統領選の選挙運動の過程で使用頻度が急増したということです。
 私たちの足下でも、立憲主義の原則を踏み越え、さらには憲法を変えて「この国のあり方」を大転換させようという動きがあります。
 これらの状況を考えたとき、出版活動の基本に「事実や真実」を伝えるという当たり前のことが重要になってきます。時代に追従した扇情的な出版ではない、と言い切れるものを出し続けることになります。
 ごく当たり前のことが、当たり前のように語られ、出版されることを持続していきたい。「客観的な事実や真実が重視されない時代」とは真逆な方向に向かうことが、私たちに課せられた仕事のように思えます。
 その仕事が創業者の抱いていた出版精神につながり、重なり合っているように思えます。こうした精神を胸に刻み続け、情熱を燃やす「継承者たち」がいるかぎり、持続し継続できると確信しています。
 わたしたちは、あるときは著者に強力な読者になっていただき、お取引きいただいている書店・販売店のみなさんが「支持者」となり、紙・印刷・製本各社の担当者の支援で「成り立って」きたように思います。
 最後に、これまでご支援いただいた多くの読者、著者、書店・販売会社関係各位、紙・印刷・製本各社のみなさまに改めて感謝申し上げるとともに、いっそうの引き続くご愛顧をお願いします。

          株式会社 大月書店 取締役 中川 進  

 

 授賞式での挨拶

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