【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第24回

海上自衛隊佐世保史料館「セイルタワー」


愛妹。今回は、海上自衛隊の広報施設である佐世保史料館、通称「セイルタワー」のことを書こうと思います。

セイルタワーという名のとおり、海のほうを向いた船の帆をイメージした大きな建物が、少し遠くからでもよく見えます。

しかしこのビルは新館部分にあたり、その新館を支えるようにくっついている旧館は、明治時代に海軍士官、外国士官などの懇談・接待・宿泊などに使用されたという水交社の建物を一部修復したものだそうです。なので、石造りの洋館に近代的なデザインビルが連結している不思議な外観となっています。


戦前に建てられた軍関連の立派な洋館は、米軍が接収していることがほとんどですが、この水交社も例に漏れず、1982年までは米軍の将校クラブとして使用されていたということです。呉にある海上自衛隊の第一術科学校第一庁舎もそうでしたが、明治期に建設された海軍の建物は本当に立派です。当時の「近代化」する技術やスピードには素直に感嘆せざるをえません。

ホームページによると、佐世保史料館は「日本海軍の遺産を継承する施設」として設立されたそうです。陸・海・空の自衛隊のなかで、このように旧日本軍の歴史を良きものとして語るのは、私が調査したなかでは海上自衛隊だけですね。

前にも書いたように、太平洋戦争の責任を陸軍だけに押しつけて海軍を善玉とみなすような「海軍史観」がかなり幅をきかせているわけですが、敗戦後に旧軍と断絶した機関として設立されたはずの自衛隊の施設が「日本海軍の遺産を継承する」と堂々と書いてしまうのは、本当に理解に苦しみます。

もちろん憲法9条があるなかで自衛隊自体の存在が可能なのか、という基本的な命題があるのですが、ともかく少なくとも旧軍を英雄視するような態度はすべきではないでしょうね。


セイルタワーは7階建てで、1階から3階までが海上自衛隊の史料や艦艇模型の展示、4階から6階が「海軍の軌跡」として佐世保鎮守府や海軍史料の展示、7階には展望ロビーと映像ホールがあります。順番としては、エレベーターでまず7階まで上がり、展示を見ながら階段で降りていくと、年代順に海軍・海上自衛隊の歴史がわかるようになっていました。

館内は撮影禁止だったので写真はないのですが、文字による解説パネルが多く、これまで見学してきた自衛隊の広報施設と比べるとかなり地味な印象でした。てつのくじら館のように体験型の施設ではないので、館内で小さい子どもを見かけることはなく、来場者自体もとても少なかったですね。

映像ホールでは、「決断」「信念」「挑戦」「団結」「情熱」をテーマにした45分の『海上自衛隊5つのスピリッツ』という海上自衛官の活動を紹介する作品と、ペリー提督来航から海軍設立、海上自衛隊の現在に至るまでを解説した17分の「波とうを超えて」という2つのプログラムが上映されていました。

私が印象に残ったのは、「徳川幕府海軍から明治海軍へ」と題された6階の展示です。ホームページでも「1853(嘉永6)年ペリー提督率いるアメリカの艦隊4隻が浦賀に来航、日本に開国を要求しました。ペリー来航は、日本の海防に対する考えを変えました」と解説されていますが、まさにこの事件を契機に日本は開国して近代国家としての歩みを始め、江戸時代までの武士から軍隊に属する兵隊へと性質を変えていったのだなというのがよくわかります。「日本」という国家、それに属する「日本国民」という概念が確立したのも、それほど昔のことではないのですよね。



愛妹、私は司馬遼太郎の『坂の上の雲』のように、明治なり明治人なりを理想的に捉える歴史観は、どうしても好きになれません。過去の日本人を美化して現在の状況を嘆いたり、変革の言い訳にしたりするのは、イデオロギーや志向を「歴史」というパッケージでカモフラージュしているだけですし、そもそも近代化そのものを自明的に是とするのもおかしなことです。

しかし、外国からの軍事的圧力があったのは事実であり、それに現実的な対応を迫られていたことは間違いないわけです。「国防」という、国家として避けては通れない任務をきっちりと考えつつ、武力と一体化した権力構造への批判意識を持ち続けることは、そのバランスをとるのが難しいからこそ、近代国家の国民たる私たち一人ひとりが常に意識しなければならないことだと思います。

現在、北朝鮮のミサイル発射や核実験の可能性が高まるなか、日米韓の海上自衛隊や海軍が連携して北朝鮮への圧力を強めています。海上自衛隊の護衛艦とアメリカの駆逐艦の共同訓練、米海軍と韓国海軍の合同訓練が25日におこなわれ、26日にはアメリカの原子力潜水艦「ミシガン」が韓国の釜山に入港しました。アメリカ、北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアなどの50隻前後の潜水艦が集結しているという情報もあります。

愛妹。テレビではさかんに危機を煽るような報道がされていますが、こういう時こそ、海軍・海上自衛隊を含めた近代日本の軍事的な歴史を冷静に振り返る余裕を持ちたいと、強く思うのです。


 



★「愛妹(あいまい)」の由来については、こちらをお読みください。

 

 

★連載第1回「防衛省市ヶ谷台ツアー」
★連載第2回「陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」」
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★連載第4回「平成27年度富士総合火力演習」
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★連載第7回「航空自衛隊浜松広報館「エアーパーク」」
★連載第8回「艦艇公開 護衛艦さみだれ」
★連載第9回「アニメ『ガールズ&パンツァー』」
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★連載第14回「防府南基地・開庁記念行事」

★連載第15回「防府航空祭2016」
★連載第16回「自衛隊夏まつり・盆踊りフェスタ」
★連載第17回「佐世保地方隊サマーフェスタ 2016」
★連載第18回「平成28年度自衛隊記念日観閲式」
★連載第19回「出雲駐屯地創立63周年記念行事・市中パレード」

★連載第20回「自衛隊広報としての『シン・ゴジラ』」
★連載第21回「芦屋基地体験搭乗」
★連載第22回
「呉入船山記念館」
★連載第23回
「陸上自衛隊音楽隊 定期演奏会」

 


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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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