【web連載】須藤遙子「愛妹通信―自衛隊広報レポート」第31回

かかみがはら航空宇宙科学博物館


愛妹。今回は、10月に行った航空自衛隊岐阜基地から車で5分ほどのところにある、かかみがはら航空宇宙科学博物館のことを書きたいと思います。



博物館を運営する各務原市のホームページによると、「航空機産業と飛行実験の街 各務原」の博物館として、戦前・戦後の国産機の資料を収集するとともに、戦後の国産機や、日本の航空技術開発に寄与した実験機を、重点的に収集しているということです。博物館の周囲には、岐阜基地のほかに、航空機を製造する川崎重工業岐阜工場もあります。

1996年3月のオープン以来335万人以上の来館者があり、現在は各務原飛行場開設100年を記念して「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館」としてリニューアルオープンするために、2018年3月23日まで閉鎖されています。自衛隊の広報施設ではありませんが、11月13日までは期間限定で「飛燕」という愛称で知られる旧陸軍の三式戦闘機が、修復前の状態のまま収蔵庫で展示されていたので見てきました。



日米開戦の1941年12月に初飛行した「飛燕」は、各務原市で設計・製造された戦闘機で、1943年6月に陸軍に採用されてから敗戦までに3000機ほどが生産されました。今回展示された機体は、現存する機体のなかで最もオリジナルに近いものだそうです。リニューアル後の博物館では完成した状態で展示されるようですが、収蔵庫では胴体、主翼、エンジン等が分解された状態での展示でした。





説明パネルによると、この機体は1944年に製造されたもので、敗戦直後に現米軍横田基地の福生飛行場で接収、機体横の日の丸が米軍のマークに変えられ、垂直尾翼にもUS AIR FORCEという文字と機体番号がペイントされて、1945年から1953年まで横田基地で屋外展示されていたということです。

そのまま自国の戦闘機として使用したというのなら理解できますが、展示するのにわざわざ自国機のように塗り直したというのは、ちょっと不思議な気がしますね。岐阜基地にあった明治の建物も米軍によって「アメリカ」の色に塗り替えられていましたが、この飛燕のペイントにも相手を「征服した」という象徴の意味が込められているのでしょうか。

展示では、7分30秒を1サイクルとして機体横のマークが変わるようになっていたのですが、日の丸が4分映るのに対し、アメリカのマークは30秒しか映りません。もともと日本の戦闘機なので当然ではあるのですが、私にはそこにアメリカの塗装をされてしまった悔しさや無念を感じましたよ。展示した職員は飛燕の時代から遠く離れて直接の関係は無いはずなのに、ナショナルなものに自分を接近させる心情というのは、理屈だけではなかなかわからないものです。




ほかの展示品としては、輪切りになった旅客機「ボーイング787」の胴体や何種類かの航空機シミュレーターなどがありました。とくにブルーインパルスの一機になったつもりで曲芸飛行するシミュレーターは、大人のほうが興奮して楽しんでいたようです。宇宙に関するものでは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から借り受けたというH-2ロケットのエンジンや光衛星間通信実験に成功した衛星「きらり」などが展示されていました。宇宙服は顔をはめ込んで写真が撮れるようになっていましたよ。







この博物館で最もアピールされていたのは、科学の力でしょう。科学は人類の生活を向上させるものですが、軍事に科学は欠かせず、科学が軍事で大きな威力を発揮するのも事実です。アメリカと旧ソ連が冷戦中に繰り広げた人類初の月面着陸をめぐる宇宙開発競争に代表されるように、莫大な資金と先端工学が不可欠な宇宙技術も、ミサイルなどへ転用可能なことから軍事と極めて近い関係にあります。

高度なテクノロジーは、人間の生活の豊かさや便利さに貢献するのと同じくらい、無慈悲な破壊と困窮をもたらす戦争に使用されています。「航空宇宙科学博物館」という名称は、いかにも平和的・進歩的で子どもたちの学習に適したイメージがありますが、戦闘機の飛燕がメイン展示だったことからも、航空技術や宇宙技術が戦争と切り離せないのは、残念ながら事実でしょう。

愛妹。北朝鮮のミサイル問題が東アジアの火種としてくすぶり続けていますが、そのテクノロジーが暴走せず、かつ他国のテクノロジーも実力行使のために使われないよう、私たち自身も自分の国をしっかりと監視しなければなりません。戦争はなんといっても国家権力の最大の発露であり、それを止めることができるのは私たち国民、市民なのですから。



 

 

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 [プロフィール]
すどうのりこ/1969年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。メディア学、文化政治学。現在、筑紫女学園大学現代社会学部准教授。著書に、『自衛隊協力映画――『今日もわれ大空にあり』から『名探偵コナン』まで』(大月書店、2013年)。

 

 

※この連載は、日本学術振興会科学研究費助成事業挑戦的萌芽研究「自衛隊広報のエンターテインメント化に関するフィールドワーク研究」(平成27年度~29年度)の成果を一部発表するものです。

 

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