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藤井貞和『水素よ、炉心露出の詩』刊行記念対談「水素ちゃんともんじゅ君」その4
(●その3からのつづき)
水素ちゃん みんなわからないよね。知らないんだもん。だってぼくたちは、電力会社のおじさんや、東芝やGEのおじさんたちが自信満々で誇ってた「五重の壁」にはばまれて絶対におでかけするはずなかったんだから。
もんじゅ君 そとに出るはずなかったから、出たらどうなるなんて予測もしてなかったし、わかんなかったんだよね。グダグダの後手後手で。
水素ちゃん そうだよ。ぼく、飛んでいって、みたんだ。ちいさな女の子が、お母さんに手をひかれて給水車の列に並んでいたの。お母さんはしきりに首を上げて空をみてたよ。みようとしたってぼくのことも、放射能のことも、目にはみえないのにね。
もんじゅ君 ふくいち君から飛び出したみんなは、その子のまわりも通ったんだ。
水素ちゃん 空から見えたよ。お外でボール遊びしてる子もいた。なんにも知らなかったんだね。
もんじゅ君 教えてあげられたらよかったね。
水素ちゃん だからぼく、すごくいけないことをしちゃったの。ちいさな子のまわりを、放射能のみんなで飛び回るなんて……最悪だよ。
もんじゅ君 ふくいち君とおなじタイプの原発は問題がある、って本国のアメリカではずっとまえからいわれてたのにね。
水素ちゃん でしょ。そうやって、あとからあとからいろんなことが「こうでした」「ああでした」ってあと出しでわかるの。声が届かないって、つらい。
もんじゅ君 ……水素ちゃんはこのあと、どうするの?
水素ちゃん ぼくは本も出せたし、もうすぐまた海にかえろうと思って。ほんとならそしたらまた蒸発して、雲になって、雨になって、地面にふりそそぐのが筋道なんだけども、でも。
もんじゅ君 でも?
●その5につづく